【特別対談】10周年だからこそ時には昔のお話をーー、藤沢とおる×鈴木緑視

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イラスト『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』より

 

藤沢とおる

『湘南純愛組』『GTO』(ともに講談社)をはじめ、数多くの作品を生み出し、

現在も「ヤングマガジン」誌上で『GTO パラダイス・ロスト』を連載中。

「ヒーローズ」では創刊2号目より『ソウルリヴァイヴァー(作画:秋重 学)』を連載、

のちに『特公 零(作画・浅田有皆)』を手掛ける(ともに原作・構成を担当)。

そして自らが執筆した『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』など、長く深い関わりを持つ。

 

鈴木緑視

「月刊ヒーローズ」の創刊準備期間から編集部に在籍し、現在は三代目編集長を務める。

金融、広告業界等、多くの経歴を経て編集者となったことは(編集部内では)もはや常識。

無類の酒好きであり、一日40本ものタバコを吸うヘビースモーカーとしても知られる。

 

公私ともに長い付き合いとなった二人による、初の対談が行われたのは11月某日。

「酒を酌み交わしながら少しだけ過去を振り返ろう」という趣旨で。

「ヒーローズ」10周年記念でなければ成し得なかった、一夜の記録。

缶ビール(かお好きな飲み物)片手にくつろいでお楽しみくださいーー。

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2011『月刊ヒーローズ』創刊決定!

 

鈴木緑視(以下、緑視):いきなりですけど、約10年前に「月刊ヒーローズ」という雑誌が立ち上がるというのを僕が話しに行ったとき正直どう思われました?

藤沢とおる(以下、藤沢):半年くらいで無くなると思ったね。

緑視:そんな…(笑)。でも僕も藤沢さんに「どうなるかわかりません」と正直に言った覚えがあります。

藤沢:もうかなり前だけど、緑視が昔にいた某漫画編集部があったろ? あそこの雑誌は3号で廃刊になったんだっけ?

緑視:あれは1年だったんですよ。週刊で刊行を続けて1年ぴったりで会社ごと潰れました。

藤沢:というのを見てたから、今回もまた潰れるのかなって(笑)

緑視:その会社が無くなり、僕がK社さんで仕事をするようになって。

藤沢:だからK社で仕事してるもんだと思ってたら、ある日なんか緑視が来た! と思ったら「ヒーローズ」創刊の話を持ってきて。

緑視:その時に「藤沢先生、僕ヒーローズに移るんで、お力添えをお願い致します!」とご挨拶させていただきました。

藤沢:でも、前のことがあって怖いから、やっぱり創刊号からは書けなかった。まず、ちゃんと本が出るのかが心配で(笑)。そしたら、本当に創刊号が出て…。

緑視:ありがたいことに2号目から執筆していただけるようになったんですよね。それが『ソウルリヴァイヴァー』だったんです。

 

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『ソウルリヴァイヴァー』より。魂の奪還を生業とする者たちの戦い。(作画・秋重 学)

 

『ソウルリヴァイヴァー』誕生、そして。

 

緑視:最初に執筆のお願いをしに行ったときは、藤沢さんはすごくお忙しかったので「本当に原作・ネーム原作からでもいいので、ぜひともお力を」と…。そしたら、その数年後にご自身で描いていただけることになって。(編注・『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』のこと)

藤沢:その時は、のちに自分で描くことになるなんて全然思ってなかった。その前に雑誌が終わると思ってたからね。でもあの頃は打ち合わせという名の飲みをよくやっていたよね。まぁ、飲んでばっかりだった(笑)

緑視:飲んでばっかりです(笑)。でも本当に楽しかった。もうあれが10年以上前のことなのか、あっという間だなぁ…。

藤沢:その中から少しずつ形になっていったのが『ソウルリヴァイヴァー』だね。ある日、飲み屋で決定したんだよね。

緑視:そうですね。ある日、突然「これだ!」って決まって、藤沢さんの中でアイデアがどんどん広がっていって、もう「出来た!」という感じでしたよね。それまでの何回もの飲みはなんだったんだ!ってくらいにサッと決まったんですよね。

藤沢:緑視が出してくれたネタも面白かったからね。これでいこうかって。

緑視:やっぱり決まる時っていうのは、そうやってパンッと決まるんだなというのを目の当たりにして。それで最初にネーム原作をいただいた時の感動というか、すげぇ嬉しかったの覚えてますから。「俺、もらったぁ!!」って。

藤沢:(笑)。無事に始まって俺もほっとしたよ。

 

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「月刊ヒーローズ」2012年2月号より『ソウルリヴァイヴァー』が連載開始した。

 

『特公 零』そして『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』へ。

 

藤沢:『特公 零』はどうやって作ったんだっけ?

緑視:作家さんが集まるお花見で、藤沢さんに浅田(有皆)さんを紹介していただいたのがそもそもの始まりでした。

藤沢:そうだ、浅田くんがやりたいって言ってたんだ。それで「特公」やろうかって話になったんだ。思い出した!

緑視:その頃は『ソウルリヴァイヴァー』と『特公 零』を同時に連載していただいて。ご自分で描かれている連載もやりながら…。

藤沢:なかなかヘビーだったね、あの頃は。

 

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『ソウルリヴァイヴァー』と同時期に連載された『特公 零』。浅田有皆が作画を担当。

 

緑視:その二本の連載が終了したあとにご自身で描いていただいたのが『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』でした。

藤沢:『SOUTH』は、あれは本当は『ソウルリヴァイヴァーSNOW』というタイトルになる予定だったんだよね。

緑視:『SNOW』のアイデアの方が先だったんですけど、『SOUTH』が前倒しになっちゃったんですよね(笑)。

藤沢:ネタも出来てて北海道にまで取材に行ったのにね。

緑視:ゆきまつりや流氷を見に行きましたもんね。僕はすごい防寒で行ったのに、藤沢さんはすごい身軽な感じで(笑)。

藤沢:なんかお前、ダウンの下にダウン着てたよな(笑)。で、寒がりだなあって言ってたら俺が一番寒かった(笑)。

緑視:北海道に着いて速攻でユニクロ行ったの覚えてます(笑)。「ユニクロ行こうぜー」って藤沢さんが言って現地調達するっていう(笑)。

藤沢:とにかく足が寒かったよ、あん時は。しかも爆弾低気圧のせいで飛行機が飛ばなくて帰れなくなったんだよな(笑)。

緑視:もう一泊しましたもんね。あれはヤバかったですよね。

藤沢:そうそう。あれはあれで帰れなかったのがまた面白かったよ。すぐ宿とって居酒屋行ったもんね。この際だからってんで温泉も行ったりな。でも翌日も飛ばないかもしれないとなって、どうしようかって…。

緑視:結局、空港で飛ぶかどうか分からない飛行機を待ってたんですよね。藤沢さんはとにかく多忙だから、申し訳ないなぁって思っていたのを覚えています。最悪、北海道に3日くらい留まることになるんであれば、電車で帰らないといけないかもって思ってたんです。

藤沢:大変なんだよ。陸路で帰るのは。まず札幌まで行くのに網走辺りからだと7〜8時間かかると思うよ。まぁ結局、次の日には飛行機も飛んでくれて、あれはいい思い出だよね。

でも『SNOW』の取材旅行に行ったんだよね? なんで『SOUTH』になったんだっけ。ちょっと覚えてないなぁ。一応、全部の季節をやろうとしたのかな?

緑視:そういうのも考えてて、宮城とか京都とか色々と候補地が挙がったんですよね。

藤沢:思い出した、思い出した! たしか映画のオファーがあって、それで短くまとめた話をやろうという話になって『SOUTH』の企画が始まったんだ。わかりやすく作っていこうと。そしたら映画が流れたんだ(笑)。

緑視:流れました。あの時はアメリカのロスまで行きましたもんね。

藤沢:行った、行った。行ったのに、映画にならないっていう(笑)。あー、それで『SOUTH』になったんだ、一応米軍を出そうという話になったのは覚えてる。

緑視:あーじゃあ、ロス行った頃には着想がもう『SOUTH』になったてたんですよね。

藤沢:アメリカの人にも分かりやすいように作り直したんだよ。ほら『ソウルリヴァイヴァー』って地獄じゃない。地獄という概念が日本と海外で全然違っちゃってるみたいで。

緑視:あと『ソウル』には108の階層が出てくるんだけど、向こうは108の煩悩って概念がないから、そんなに階層が必要ないって言われちゃって。それが違ったんですよね。

藤沢:そうだ、それで『SOUTH』をやったんだ。俺も思い出したよ。

 

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『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』は2015年2月号より連載が開始され、全3巻刊行された。

伝説の「北の国から」ツアー

 

藤沢:あれ?『SNOW』の取材とは別に、ヒーローズとはもう1回北海道に行ってるんだっけ?

緑視:行ってます! 2回目は『SOUTH』の連載が終わった打ち上げと、次回作の取材ってことで富良野に行ったんですよね。そのときのメンバーが全員『北の国から』の大ファンだったってことで(笑)

藤沢:あぁー『北の国からツアー』は面白かったよ!! ほとんど取材にならなかったけど、あれは面白かった(笑)。

緑視:途中から「北の国からごっこ」がメインになっちゃったんですよね(笑)。お店で『北の国から』のサントラCDを買って、車の中で流したらバッチリハマって…。あれは感動したなあ。そのあと札幌に移動して、みんなでジンギスカン食べに行ったりして、いい思い出ばっかりです、北海道には。

藤沢:1回目の『SNOW』の取材で雪景色の北海道は撮ってたんだけど、雪のない景色が必要だったから夏にも行ったんだよ。それが「北の国からツアー」の始まり。建物があるところに雪をつけるのは想像がつくからなんとかできるけど、雪の風景から雪がないところを想像するのは大変なんだよ。

緑視:でも本当に色んなところに行かせてもらったというか。藤沢さんがあそこ行こう、ここに行こうと言ってくれるので。北海道もそうだし、沖縄もそうだし、あらゆる基地に取材に行って航空ショーも見に行ったりして。あとはタイに呼んでいただいたりとか!

藤沢:あれは完全にプライベートの話だよな。俺が共通の知人とタイに行ってて、緑視に「来いよ」って連絡したら本当に来たんだよ(笑)。

緑視:K社時代の頃ですね。で「緑視来ないの?」って藤沢さんから連絡あって、「来ないんだぁ」って言われて、それから旅行会社行って飛行機の当日券とって、当日券がまた高いのよぉ。30数万もしましたからね。

藤沢:タイでもそんなにかかるの?

緑視:全然かかりました! 前日に取っておけばまだ安いんですが当日は高いんですよ。朝に連絡を貰って、午前中10時に旅行会社オープンしてすぐチケット取って、18時くらいの飛行機に乗って着いたら深夜で、藤沢さんとその共通の知人がもういい感じに酔っぱらってて「本当に来たの(笑)」って言われて(笑)。その後に翌日にゴーカートに乗って遊んだのを覚えてます(笑)。

藤沢:本当に来るとは思わないじゃん(笑)

緑視:声をかけて貰ってめっちゃ嬉しかったの覚えてるけど「タイか…」って思ったのも覚えてる(笑)。

藤沢:あれは、仲がいいからの無茶ぶりっていうかね。実際、その頃は一緒に仕事はしてなかったから作家と編集っていう関係ともまた少し違ってたしね。

緑視:でも僕はいずれ機会があったらお仕事ご一緒したいなとはずっと思っていました。

 

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北海道…ではなく、「沖縄」を舞台に圧倒的迫力で描かれる『ソウルリヴァイヴァーSOUTH』

 

鈴木緑視・編集長就任とお店選びのこと

 

緑視:そうだ、藤沢さんに聞きたかったんですけど僕が編集長になるって聞いたときは正直、どう思われました?

藤沢:度肝を抜かれたよ。あはははは(笑)。

緑視:「コイツでいいの?」って? あははははは(笑)。でも5年近く務めさせていただいてて、お陰様でなんとかかんとかやっとります(笑)。

藤沢:あはははははは(笑)。すごいじゃん!でも。

緑視:藤沢さんから色々学ばせていただいたおかげです。取材の時なんかは特に。「自分の目で見る」というのを教わりましたね。あと構図、カメラ(写真)の撮り方とか、現場に行かなきゃダメとか。ネットじゃなくて。あと、店。取材に行った先の店も事前に調べて行ってましたもんね。

藤沢:そうだね。

緑視:現地のお店に行って、店の大将とかママさんに話を聞くと地元にまつわる面白い話が聞けたり、地元の人しか知らない美味しいお店を教えてくれる。

藤沢:それは仕事に関係ないじゃん(笑)。

緑視:でも、そういうことを経て、長い付き合いをさせていただいてるんじゃないですか(笑)。編集長になって本当に色んな業種の人と食事をする機会が増えたんですが、藤沢さんから学んだ店選びの重要さがすごく活きてるんですよ。

藤沢:そうなに言うほどのことじゃないだろ(笑)。

 

これからのヒーローズ

 

藤沢:それよりさっきからの話をまとめると、もうお前との付き合いも15年以上になるってこと?

緑視:多分、僕が24歳の頃に出会ってて。いま、47歳なんですよ。

藤沢:えっー! 20年近く前ってこと?  …そっか、もうなんだろ、色んなことがあったね。そう考えると。10年だっけ? ヒーローズはすごいね。

緑視:ヒーローズは10年です。正直、入社時は僕がヒーローズで10年やってると思わなかったですもん。今の好調を持続できるように、会社の皆と頑張っていきます。

藤沢:作品だよ、作品。これからもガシガシ作品を創っていってよ〜。

緑視:ぜひ、藤沢さんにはこれからもお力を貸していただけると!

藤沢:ああ、それはもちろん! 本当に10年続くとはまったく思っていなかった。いろんな漫画が出ては消えていく中で、ここまでよく頑張りましたということで。なんかちょっと緑視を見直しちゃいそうだよ(笑)。

緑視:そこは藤沢さん、素直に褒めてくださいよ!(笑)

 

(文・構成/沼津三太郎)

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