現在、「コミプレ」には
『仮面ライダー』の名を冠した作品が
2作連載されている。
ひとつは平成仮面ライダー第1作
『仮面ライダークウガ』(脚本・井上敏樹/漫画・横島一/企画・白倉伸一郎)。
新たな英雄、新たな伝説を創り出した名作のコミカライズだが、
連載開始より7年を経て、五代雄介や一条らが活躍する『クウガ』の世界に、
平成ライダー第2作『仮面ライダーアギト』の世界の「アギト」=津上翔一や、
G3ユニットが登場するクロスオーバー作品となっている。
もう1作が『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』(柴田ヨクサル)。
タイトル通り、仮面ライダーに憧れる中年男が、同様に昭和ライダーに憧れる「変人」たちとともに、実在していた悪の秘密結社「ショッカー」と戦う、泥臭くも熱い物語だ。
『仮面ライダー』にリスペクトを捧げつつ、イメージを覆す2作品の創り手に、
その「ライダー」への思いや、創作の秘密、そして過去作品の秘話などを語っていただいた。
_________________________________________________________________________
漫画版『仮面ライダークウガ』を始めたきっかけ。
柴田ヨクサル(以下、柴田):今日はよろしくお願い致します。
井上敏樹(以下、井上):よろしく頼むよ。
柴田:前からお聞きしたかったのですが、そもそも漫画版『仮面ライダークウガ』が始まったきっかけはどんな感じだったんですか?
井上:7年前、当時の『月刊ヒーローズ』の編集長か誰かが「やりたい」って白倉(伸一郎)プロデューサーに相談したら、「井上敏樹が書くならいいよ」って言ってくれたらしい。最初は、こんなに長く続くとは思ってなくて。単行本5,6巻で終わるんじゃないかと思ってたんだけど、遠大な話になってきたよね。
柴田:「アギト」、津上翔一が出てきましたもんね。 初代『仮面ライダー』にも1号、2号という流れがあるので、平成の1作目と2作目であるクウガとアギトの共演が見たいと、みんな思っていたと思うんですよ。
井上:やっぱり、アギトが出てきて面白くなったでしょ? まあ、漫画版の「アギト」、津上翔一はロクな奴じゃないけど(笑)。
柴田:それがいいんですよ。SNSでも話題になりましたが、なぜそんなキャラクターに?
井上:五代雄介も一条薫も、登場人物がみんな真面目で清らかな人々だから、「毒」があった方がいい。駿河徹也っていうキャラクターを出したのもそうだけど、やっぱり「毒」がないと、つまらないんだよ。逆に駿河みたいなのは、言いたいことを言わせやすいから、書きやすいし、女性ファンも多いんだよね。
「東島丹三郎」は要するに、やめられない奴なんだよ。
井上:『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』読ませてもらったよ。面白かったよ。
柴田:ありがとうございます。
井上:男だから、気持ちがわかるよ。子どもの時の『仮面ライダー』になりたいという気持ちを持ち続けた……要するに、「ごっこ」がやめられない奴なんだよ(笑)。
柴田:まさに、そうです。
井上:でも、よく思いきって、この作品を描いたね。けっこう勇気いる企画だよね。
柴田:僕も最初に提案した企画はNGになったんです。最初はお面じゃなく、完全に『仮面ライダー』の「コスプレ」だったんですが、「漫画の中でのコスプレだと、本物と区別がつかないので、読者からすると仮面ライダーになってしまう」ということで。
井上:「お面」は許可下りたんだ。
柴田:はい。
井上:そりゃそうか。「仮面ライダーになりたい」って名前も出てるから(笑)。
テレビ版『仮面ライダークウガ』の魅力。
柴田:テレビ版の『仮面ライダークウガ』はリアルタイムで見ていました。「仮面ライダーが復活した」というのが嬉しくて。ハイビジョン撮影だったので、えらく綺麗だなあとビックリしましたね。
井上:確かに、『クウガ』は映像美がすごかったね。石田秀範監督という名匠がいたんだよ。
柴田:クウガを書かれた時はおいくつだったんですか?
井上:30代……いや、40代に入っていたかな。
柴田:今考えても『クウガ』は唯一無二ですよね。平成ライダーでは、たくさんのライダーが最初から登場する作品もありますが、『クウガ』はクウガだけしか出てこないし、白いクウガから始まるのもたまらないですよね。サナギっぽいところから、自分で謎を解いてパワーアップしていくというのも面白いですし。
井上:オダギリジョーもよかったね。
柴田:奇跡ですよね。当初、朴訥としていたのは新人だからと思ったんですが、その後も同じだから、じつはあれで完成していたんですね。
井上:あの飄々とした感じね。
柴田:『クウガ』は人間をしっかり描いていて、ドラマを作り上げていて、本当に素晴らしいです。主要人物以外もしっかり描いているから、厚みが半端ないです。俳優も全員素晴らしい。
井上:俳優の演技で見られるからね。
柴田:世界観もしっかりしてるし。
井上:あと、グロンギ語ね。
柴田:あれも意味がわからない分、怖さが増しましたよね
井上:最初のオンエア時には一切意味が出なかったじゃない。でも、グロンギっていう謎の種族の言葉なんだから、意味がわからないっていうのも理に適っている。後に出たDVDでは日本語訳が出たんだけど、
柴田:初代の『仮面ライダー』って、けっこう人が死ぬんですが、それに負けないくらい、『クウガ』は人が死にますよね。
井上:3日で500人とか殺されてるからね。
柴田:死に方も半端ないですよね。理由もなく、理不尽に殺されていく。
井上:今じゃもう出来ないだろうね。
柴田:すれ違っただけで殺されますからね。
井上:ライダー史上一番怖い敵はグロンギじゃない?
柴田:怖いですね。不条理に殺す。最初の『仮面ライダー』に立ち返った怖さがある感じ。
井上:あと、グロンギのデザインもいいし。
柴田:最初、ちゃんとクモとコウモリが出るというのもアツいですよね。昭和のリスペクト、オマージュとして。
仮面ライダーには青春を捧げた
柴田:井上先生は『クウガ』『アギト』『龍騎』『555(ファイズ)』から『キバ』までと、平成ライダーの『ディケイド』までには『電王』以外はほとんど参加されているんですよね。
井上:そうだね。
柴田:平成ライダーの基礎を築いたと言っても過言じゃないと思うんです。僕は『龍騎』で仮面ライダー同士のバトルロイヤルを見て、「これってOKなんだ!?」と驚いたのですが、現在ではライダー同士の戦いは定番になりましたし。
井上:『アギト』もほとんど俺が書いたかな。1話だけ小林靖子が書いたけど。映画版も書いて、大変だった。
柴田:『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』ですよね。
井上:そう。平成ライダーの映画版はアギトが初めてだったんだけど、劇場版に人が来るか心配だったんで、見に行ったのよ。そしたら、公開初日に映画館に長蛇の列が出来たって。
柴田:『アギト』では、アギト、ギルス、G3の3人のタイプの違うライダーがいて、それぞれ良かったですよね。
井上:一番苦労したのは、ギルス=葦原涼のキャラクターかな。苦労した結果、「あかつき号事件」っていう謎を作ったんだけど、当時のプロデューサーが偉かったのは、「これはどうなるんですか」とか一切聞いてこなかった。「井上敏樹がなんとかするだろう」って信頼してくれて。だけど「あかつき号事件」はフェリーで撮影しなきゃいけないから大変で、監督さんたちが「誰が撮るんだ」って、押し付け合ってね(笑)。
実写が楽しいのは、そういう共同作業。みんなの意見を出し合ったりして、出来上がった映像の演出が、俺の脚本を越えてくると、また頑張ろうと思うし。こっちも担当する監督が事前にわかってる場合は「あの人はこういうの得意だから」と、その監督に合わせて脚本を書くこともある。
柴田:「アギト」や「ギルス」もいいですけど、「G3」もアツいですよね。
井上:あれは普通の人間だからね。
柴田:仮面が半分割れるのにアツさを感じたり、萌えを感じる人が出てきたり。
井上:要潤もいいよね。G3グループもよかった。北条刑事とか。
柴田:僕の中では『クウガ』が殿堂入りなんですが、『アギト』は『クウガ』の作った平成ライダーの世界をさらに伸ばしたという感じなんです。
井上:『クウガ』は、意外と昭和ライダーの継承者なんだよね。映像的にオシャレになってはいるんだけど、怪人が出てきてそれを倒すというフォーマットは昭和ライダーを継承している。だけど、『アギト』はそれを全く無視してドラマを中心に書いたんだよ。
柴田:確かに。
井上:辛かったのが、俺が遊びに行かないように、プロデューサーが脚本家をホテルにカンヅメにするわけ。苦労して劇場版を書き上げたら、「この勢いでもう1話をお願いします」とか言うんだよ。地獄よ、地獄。
テレビと、劇場版と、それからアニメの『ギャラクシーエンジェル』なんかも同時進行で書いてたから、頭がおかしくなるね。
柴田:えーっ、本当ですか!? 僕の好きな作品ばっかりですよ。
井上:スラップスティック、ドタバタが好きなんだよ。実写だと難しいけど、アニメだとできるじゃない。たまにはハチャメチャなのを書きたくなるのよ。
柴田:しっかり書かないといけない『仮面ライダー』と真逆ですよね。
井上:まあ『クウガ』と『アギト』がなければ、今はない。『アギト』がヒットしたから『龍騎』へと続いたけど、そこで終わっていたかもしれないからね。
ライダーには青春を捧げたからね。返してほしい(笑)。
仮面ライダー555(ファイズ)は全話「神回」です!
柴田:今日、とても驚いたのですが、井上先生は『仮面ライダー555(ファイズ)』の脚本を1年間、全50話すべて執筆されたんですよね。
井上:書いたね。
柴田:これって、週刊連載と同じだと思うんですが、実際は30分のドラマだと、週刊漫画の2~3本分の分量なので、本当にこれは尋常じゃないことだと思います。
井上:一年間ずっとやってると、漫画の場合だと「体調不良につき休載します」というのがあるけど、テレビの場合はありえないからね。
柴田:何よりも内容が素晴らしい。全話「神回」です。内容を落とさずに1年間書かれたというのが素晴らしいです。名作中の名作ですよね。
井上:いやあ、寿命が2、3年縮んだ気がするね。150歳で死ぬ予定が147歳になった(笑)。すごいプレッシャーだよ。
柴田:ベルトが敵の手に渡って、先週まで敵だった人がファイズに変身したり。55の変身が解けて、もう一度オルフェノク(『555』における怪人)として戦うとか。すごく画期的ですよね。すごいですよ。びっくりしましたよ。
展開がアツいし、ありえないほど素晴らしい。最高です。これは多くの人に伝えたいです。
井上:『555』に出てくるカイザのベルトなんかは、付ける人によっては死んじゃったりするけど、あれも今思えば、よく許してくれたなと思うよ。ベルトをつけると死ぬとか、子どもが嫌がると思うじゃない。
柴田:そうですよね。
井上:でも、子どもは実はそういうベルトこそ、欲しがるんだよね。だって「希少」だから。そんな希少なベルトを「自分は付けられる」というのが嬉しい。
柴田:そのあたりから、ベルトが出たらすぐ売れて、子どもだけじゃなく、お父さんたちも欲しがるようになりましたよね。
井上:そう。お父さんが欲しがるから、ゴージャス版が発売されるようになった。限定何本とか言われると、さらに欲しくなるよね。
柴田:僕は『オーズ』のメダルを集めましたね。ケースまで買って本気で集めました。
井上:あれは上手かった。子どもって、金貨とか憧れるじゃない。持ち運びやすいし。俺は『オーズ』には参加していなかったけど、知り合いから「メダルが手に入らないからなんとかなんないか」って。俺に言われてもねえ(笑)。
柴田:大ブームでしたね。
井上:昔は「仮面ライダーカード」だったね。ライダースナック買って、カードだけ取って捨てちゃう子どもがいて、社会問題化してたけど。懐かしいね。あの頃は幸せだった……。
井上敏樹・柴田ヨクサルの創作の原点は?
柴田:脚本家になられたのはおいくつですか?
井上:デビューが『Dr.スランプ アラレちゃん』で、22歳。『YAWARA!』を書いていた時が29歳くらいかな。
柴田:当時は脚本家になるための方法はあったのですか?
井上:あるにはあったけど、俺の場合は、親父が脚本家(伊上勝 氏)だったの。初代『仮面ライダー』を書いたりしていて、そのつながりでプロデューサーがよく家に来ていて。ある時、「お前も書いてみろ」と言われて書いたのが始まり。『アラレちゃん』のシナリオは、大学の授業中に書いてましたよ。そのままズルズルと本職になってしまった感じかな。
柴田先生はデビューして何年ですか?
柴田:30年ですね。
井上:どうやって漫画家になったの?
柴田:僕は田舎が北海道だったので、雑誌に投稿したり、賞に応募して、上京してアシスタントになり、修行する……というルートしかなかったですね。今は、漫画家になるにもいろんな方法があっていいなと思います。ネット上に発表したら、編集者から声がかかったり。
井上:編集者も漫画家を探してるもんね。やっぱり「絵」が描けるっていうのは特殊な才能だと思う。我々は「字」だから、全然特殊じゃない。「自分にも書ける」っていう編集者もいるんだよ。
それぞれの執筆スタイル。
柴田:井上先生はどんなスタイルで仕事をされているんですか? 決まった時間に何時から何時までとか……。
井上:たぶん同じだと思うよ。〆切が迫ってきたらやる。
柴田:同じですね(笑) 僕もできない時は全然出来ない。
井上:そうだよねえ。まあ、寝ながらでも、飲みながらでも、常に頭のどこかで考えていたりするじゃない。それが、ある日突然、頭の中で、ピシッとはまったら、「これはできるな」と。
柴田:書き始めたら早いタイプですか?
井上:早いね。一気に書く。俺は人からはざっくばらんなタイプに見られるんだけど、実は真面目で、非常に細かく考えるタイプだから(笑)。スタイルは人それぞれあるけど、俺はずっと家にいるのはダメなの。
柴田:外の方がアイデアが浮かびますか?
井上:浮かぶね。しかも、プロデューサーとも飲みながら無責任に意見を交わして、パッと広がっていく感じ。自分を自由にして「ひもとく」方がいい。そういう瞬間大事じゃない。一人じゃ自分の考えに固執してしまうから、俺はこっちの方が合ってる気がする。
いくら掘り進んでも金鉱が出てこない時は、本当は一回、そのトンネルは止めた方がいいんだよ。崩した方がいい。
でも、掘り始めると、なんとなく、もったいなくなるじゃん。
柴田:なるほど。プロの将棋指しが、1、2時間考えて、その手を捨てられないのと同じですよね。本当は「これじゃダメだろうな」と思うのに、その手を考え続けてきたから、結局その手を指してしまうみたいな。
井上:そうそう。それと同じ。捨てる勇気って大事じゃない。
柴田:大事ですよね。
井上:だから最近は捨てることに、ためらいはないよ。あと勘だよね。「これダメだ」と思ったら、捨てる。発想はいいんだけど、発展しないとか。
柴田:天才肌なんですね。
井上:いやいや、勘。鼻かな? いい匂いがする方に行きたいじゃない。
柴田:僕は本当にのたうち回って、苦しむ。追い詰められてからアイデアが出るタイプなんです。
だから、辛くてキツくてしょうがない。自分が底辺の下等生物の最低のクズだと思えるところまで落ちて、そこではじめて、やっと描けるようになるみたいな。
井上:それはわかるよ。
柴田:漫画で、僕よりすごいキャラクターを描かなければならないわけですよね。でも、自分の考えじゃ足りないことはわかっている。書けないクズが一生懸命、描かしてもらっています、みたいな感じで描くしかない。
それは、その人が「生きている」と思って描いているから……だから、キャラクターが僕の手から離れてメチャクチャやりだすんですよ。
そうすると、僕の思っている通りには行かないので、泳がせる感じなんです。
井上:わかる。誰でもそうだよ。
柴田:とにかく残りの人生を全部賭けて、他は要らない感じで描いています。こういう作り方は、苦しすぎて、身体に悪すぎるし、作家としては本当はダメなんだと思うんですが、実際にそこまで行かないと、お話が出来ない。僕はそれでしかできない。
井上:それでいいんだよ。大丈夫。それは間違っていないと思う。
柴田:週刊連載の時は本当に地獄中の地獄でしたね。
井上:今、連載は何本?
柴田:今は『東島』の他に、ネーム原作を1本書かせていただいているんですが、それはスパンがゆるいので、だいぶ楽ですね。
井上:俺も苦しんでるよ。でも、パッと光って、天から「命綱」が降りてきて、大丈夫だ、登れそうだ、みたい感じになるといいけど。まあ、途中で切れて転落する場合もあるし。
柴田:僕は一足飛びということができないんです
井上:絵もそんな感じがするよ。頑張ってるなって感じがして、味があるよ。
柴田:女のキャラ描いても、オッサンみたいだって言われたり。
井上:オッサンが描ける漫画家は貴重だよ。
「井上先生はダンディすぎてズルいですよ」
柴田:井上先生のご趣味は?
井上:骨董、酒器集めと、あとは飲食、旅行。旅行は美食旅行ね。観光禁止で、観光できる体力を残すくらいなら、朝・昼・晩・夜食と、ちゃんと飲食する(笑)。
柴田:僕はあまり食べない方なんですよ。
井上:少しずつ、美味いものを食べるといいよ。でも、徹夜とかしたら腹減らない? 糖分が必要じゃない。
柴田:必要ですね。
井上:柴田先生は趣味はないの? 仕事が趣味?
柴田:そうですね。もはやそう思っていますね。僕は映画配信サービスで映画とかを延々と見ながら描いているんですよ。僕にとってはいい時代になったと思います。あと、将棋が趣味なのですが、昔は新宿道場まで将棋を指しに行っていたんですが、今は近くに対戦相手がいなくてもネットで対戦できるようになったので、全く家から出ないようになりましたね。月に一回くらいしか外出しないような生活をしています。それでいいんだと自分で決めたので。
井上:でも、将棋は目の前に人がいた方が面白いんじゃないの?
柴田:確かに勝った時の喜びは格別ですね。
井上:仕事場は自宅になってるの?
柴田:はい。週刊連載の時はアシスタントが2人いたんですが、今は一人です。僕は学生時代はレスリングをやっていて、個人競技は負けても自分の責任だし、自分が強くなればいいんすが、団体競技はそうはいかない。チームワークが苦手で協調性がないんです。
井上:俺もそうだよ。
柴田:結局、一人がいちばん居心地がいい、というところにたどりつきましたね。僕の中では友だちが多ければいいというのも違うかなと。
井上:俺も友だちなんて誰もいねえよ。
柴田:え? 井上先生は人気者タイプじゃないですか? 女性にメチャクチャもてたタイプでは?
井上:なんでわかったの?(笑) まあ、たいしたことないけど。
柴田:学生時代から背も高かったんですよね。
井上:そりゃそうだよ(笑)。50歳で急に背が伸びるわけないじゃん。
柴田:ダンディすぎますよね。
井上:え? よく言われる(笑)。
柴田:脚本家で一番カッコいいんじゃないですか。
井上:よく言われる。……いい人だねえ(笑)。
柴田:これまでに作品がアニメ化された時に脚本家の方とお会いしたことはあるんですが、井上先生は僕の脚本家のイメージとはずいぶん違うなあと。
井上:それは個人のイメージだからね。(笑)。
柴田:僕は「イケメンとかモテた人は作家にはなれない」っていう持論を持っていたんですが、それにあてはまらないんですよね。
井上:根は暗いんだよ。
柴田:そんなことないような気がしますが……でも、ご自身の中の苦しみも作品の中で昇華するというか。
井上:俺は家庭が暗かったのよ。子どもの頃は家庭とか両親が全てだけど、それが崩壊していて、地獄だった。いつも泣いていた。ガキの頃が地獄って、結構辛いよ。でも、人間であること自体がイヤで、コンプレックスなのよ。自分を持っていることがイヤで。インドに修行に行ったりね。私は雲になりたいとか言って。 だから、井上敏樹というのは世を忍ぶ仮の名前で、本当はスワミディアン・ムネシュというんだよ。
柴田:え!? ……でも、かっこよさを維持されてるのはすごいですよね。基本的にかっこいい作家、色気のある作家って、あんまりいないですから。
井上:まあまあ。照れるじゃない(笑)。
柴田:しかも、声もいいからズルいですよ。声優もできるんじゃないですか。
井上:俺はそういうタイプじゃないよ(笑)。意外と表に出たくない。裏方でいたい。
外に出てもいいんだけど、どんなに仲のいい人でも2日続けて飲むと、部屋に帰って本読んだり仕事したくなる。元々家にいるのは嫌いじゃない。でなきゃ、物書きにはならないしね。
人生の秘密は「一生懸命が楽しい」を知ること。
柴田:でも、今日お話させていただいて、井上先生はやはり「現役感」がすごいなあと思いました。
井上:まあ、でも俺は「意地」しかないからね。変なものを書かない。そのための「意地」。太宰治が『道化の華』で「復讐のために書いている」とか言っていたんだけど、俺はそこまでじゃないにしても、第一線にいたい、いいものを書きたいという意地がある。そのために頑張る。一生懸命が楽しいんだよ。半端じゃつまらない。それがいい。
柴田:僕もここにしか生きがいがないですから。
井上:でも、「一生懸命が楽しい」ということがわかるとOKなんだよ。人生の秘密ってそれじゃん。一生懸命やることが楽しくなる。それがわかれば、どんな分野でも成功すると思う。一生懸命やってると本人は思っても、そうじゃないってこともあると思う。一生懸命のレベルが違う。「超努力」だよ。
柴田:作家はみんなそうだと思うんですが、自分が面白いと思うことも、万人にわかるように噛み砕いて伝えなきゃいけない。それが一番技術が要るんですよね。そこに苦労するし、一番努力しなきゃいけないところですよね。
今の「流行りの言葉」で書かないといけないのかというと、そういうことでもない。そこをあまりにも意識しすぎると、あとで古くなって恥ずかしくなってしまう。
井上:そうそう。もちろんそのとおり。今風だけど、古びていかない言葉にする必要がある。ストーリーもそう。盛り上げたいシーンを盛り上げるためには、いろいろ定石があるんだけど、最近はそれを知らない人が多い。外していくのも大事だけど、外しすぎるとダメ。料理でもなんでもそうで、崩し過ぎると、おかしなものになって楽しめなくなっちゃう。
柴田:まさに。そのとおりだと思います。
――では、読者の方にメッセージを。
井上:そうだなあ。「読者様を退屈させないような展開にしたいと思います」。これでいい?
柴田:僕としては、井上先生が『ファイズ』を全話一人で書かれたことを知って、僕が驚愕したことをみなさんに知ってもらいたいですね。「柴田ヨクサル驚愕!」と。あと、僕は「仮面ライダー」にずっと憧れていて、デビュー作も高校生が仮面をつけている作品だったんです。
井上:そうなんだ。一生のテーマだね。
柴田:屋台で売っているお面を被って…。
井上:それがいいね。それ好き。頭おかしいね。
柴田:僕はこの『東島』を連載させていただいて、ライダー軍団の末席にいれていただいたと思って、頑張らせていただきますので、よろしくお願いします。
井上:うん。大人になっても「仮面ライダーごっこ」を忘れない変態たちだからね。
柴田:ありがとうございます。僕は作品を描く時、苦しんで苦しんで、描くんですが、死ぬ時に「やっと死ねる」と思えるくらい、命を削って、苦しみながら作品を創り続けたいです。
井上:まったくそのとおり。今日は会えてよかった。あなたは面白い人だね。
(2021年11月22日 構成・山科清春)

